+ 壁の花 パンの耳 +
2
2.甘い闇を映し出す光の憂鬱
(1)
目を閉じて。
みみずくがないてる。悲しい声だ。
冷たい風が僕等の頬を撫でていくね。
今は初冬の季節。
夕方だから特に肌寒いね。
子供も家へ帰る時間だ。
さあ、目を開けて。着いたよ、ここが僕の世界。
あんまり君の世界と変わらないでしょ。森の真上ってこともあるけどね。
ほら、見てごらん。あそこに幼い少女がいる。黒髪で、少しウエーブがかかった短いおかっぱ頭のあの子だよ。服は泥だらけだね。転んだのかな。
ん?なんで雨の森を必死に歩いているのかって?
そりゃぁ彼女は親に捨てられたからさ。今年は不作だったようだからね。食い扶持を減らしたかったんだろうな。ははは。
…あれ?黙りこんでどうしたの?
いいんだよ。そのお陰で彼女の人生は光り輝くことになるんだから。まぁ、彼女の心が曲がらなければの話だけどね。
大丈夫。時は誰に対しても平等だよ。さぁ、彼女の人生を見てみよう。
彼女の名前はレダ=イスヴェル。十二歳。それにしては背が小さいね。どうでもいいけどさ。
彼女はこれから光と出会うことになるんだ。
さあ、僕達も遅れないように早く行こう。
心配しないでいいよ。僕達の姿は誰にも見えないから。
さあ、行くよ。
(2)
レダは一人濡れた森の中を歩いていた。
もう薄暗い。
覆い被さるように鬱蒼と茂る森の木々は、不気味な音を鳴らしながらレダを見下ろしていた。
涙か雨か分からない水滴がレダの柔らかな頬を滴り落ちる。
もう、私死ぬのかな…。
…その前に何か食べたいよ。
…お腹すいたなぁ。
もう疲れた…。
どれだけ同じ風景の中を歩いただろう。
落ち葉は泥にまみれ、上の方へとのびる道は歩く気力も体力も奪うのみだ。
夜はすべてを闇に包む。レダの意識もその中に取り込まれそうだった。
いつのまにか自分の膝が地面につく。がくがくと小刻みに震えたままだ。
土が冷たい。
レダは荒い呼吸と同時にため息を吐き出すようについた。
寂しい死に方だなぁ。
空は暗く、月どころか星もでていない。
・・・でも、親に捨てられた時点で死ぬことなんて決まってたよね。私、分かってたよ。
無意識のうちに目をぎゅっとつむる。
分かってた…。
涙がまた溢れ出す。目が痛い。
誰か、助けて。
神様、助けて。
ああ、でも魔物に食われて死ぬよりかはまだマシかもしれない。昔はここもよく出たてママが言ってたし…。
ありがたいことに今はここら辺に魔物はでない。おばあちゃんが私と同じ年ぐらいの頃、勇者とやらが現れて倒してくれたらしい。
時々出没する熊も今は冬眠中だ。襲われる心配もない。
眠ろう。
眠ってしまおう。
そうすれば、この冷たさ、忘れることができる。
もう何も、考えたくない。
体中の力が抜ける
顔に濡れた葉っぱが触れた。手にも。足にも。全身に土と葉っぱの感触がする。
レダは地面に横たわった。
もう立ち上がる気力はない。
やっと眠れる…。
思考力がなくなっていく。頭の中はもう空っぽだ。
でも、何かがやけにひっかかる。
これは、なんだろう。
ああ、そうだ。昔聞いたきれいな言葉だ。
薄れる意識の中、なぜかレダは思い出していた。昔、パパが勇者から聞いた守りの言葉。2人きりの時はいつも唱えてくれて、最後に必ず「誰にも言うな」と言っていた。
それは、どうしてだったんだろう。
もうパパは死んでしまったから分からないままだ。祈りの効力も消えたんだと思う。
だから、ママに捨てられたのかもしれない。
もうあいまいにしか覚えていないはずの言葉が天から降ってくるように優しく頭に響き渡る。
レダは、子守り歌を聞くような安らかな気持ちで、静かに目を閉じた。
愛の源たる永遠の光輝よ
憂いをその身に宿した純愛の大地よ
かの地を守り調和の糧となり
すべての和の種を守る地上の天使よ
天に愛でられし神からの使者ビューティ
その絶ゆることのない愛をもって
汝の幼子に刻まれた幸ある力を開放させたまへ
聖なるかな汝 選ばれし栄光よ
聖なるかな汝 輝かしき祝福よ
我は汝の救世主たるを信じ
レダに庇護と慈悲、恩恵と幸運をもたらすことを祈る
それから数分後、彼女を抱き上げ、森の奥へ連れて行く一つの影があった。
新たな物語がここから始まる。
それはただ、主催者が違うというだけのありふれたパーティ。
それでも人は踊り続けることを望む。
時は限られている。
時に縛られている。
ただそれだけの理由で、人はそこに愛を見出す。
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