+ 四季第三章 +



 5.別れ

「もう限界だと思うの」
 ごくありふれた会話のように、さり気なく彼女は言った。
 ようやくきたか……。僕は悲しみと共に少しだけ安堵していた。
「別れましょう」
 ようやく終わるんだな……。
 一体この恋は、なんだったのか。
「分かった」
 突然街角から現れたおばちゃんが、不思議そうな顔でこちらを見る。真剣な顔で向き合う若い二人。どう思われているんだろう。
「じゃぁ」
「ああ」
 短い会話。たったこれだけで終わってしまうなんて。
 僕は、歩き去る彼女が角を曲がるまで、ずっとその姿を見ていた。



 6.そして冬

 僕は、結局彼女に素直な気持ちを伝えられなかった。今思うと、全て話してしまえばよかったと思う。どうせこうなるなら、心の内全て、さらけ出してしまえばよかった。
 何度も後悔して、同じ過ち繰り返して。
 どれだけ失敗すれば気がすむのか。
 次に誰かと付き合うことになったら、もっと正直になろう。後で後悔することのないように、後で、ああ言っておけばよかった、なんて思わないですむくらい。
 そんな自分でいられるような、そんな自分を許せるような、そんな自分を好きでいられるような、そんな相手がもし現れたら、今度は絶対に素直な自分でいよう。何度も好きだと言おう。
 次こそ、僕から歩き出そう。



 7.最後にクリスマス

 十二月二十五日。
 今年のクリスマスも結局一人で終わりそうだ。
 昨日のイブも一人だった。
 今年こそはと思ったんだがな……。いや、僕が悪いんだろうが。
 背中を丸めながら半纏を羽織り、夕刊を取りに外へ出る。
 嫌なクリスマス……。せっかく雪降ってんのにな。
 上を向いて口を開け、一人雪を食べながら、何やってんだろ俺、とか思う自分が可哀相で泣けてくる。だからといって、友達と遊ぶ気にもなれなかった。
 ポストから新聞を取り出す。
 あれ?
 中には自分宛ての手紙が入っていた。消印はない。誰かが直接届けたのだろう。相手の名前も見当たらない。
 しかし、この字は……。
 僕はダッシュで家に戻ると、息せき切って封を開けた。
 お久しぶりです。
 今さら、と笑うかもね。見たくなければ読まずに破り捨ててくれて構いません。
 ただ、何も言わず別れてしまったことを後悔したので、これだけはと思い、書きました。
 僕は読みながら、いつのまにか泣いていた。
 読み進む内に、後悔で胸がいっぱいになる。
 彼女との思い出が次々と脳裏に浮かぶ。
 ああっ……。
 なんて、なんて僕は馬鹿だったのか!
 そんなことは初めから分かっている。
 しかし、これほど馬鹿であったとはっ……。
 次に頑張ろうと思うことで、今を諦めていた。今を諦めている奴が、次で成功するはずないじゃなないか!
 ……今すぐ行こう。
 もう別れている。もうきっと元には戻らない。それでも、今言えることがあって、今しか伝えられないことがある。
 僕は半纏を羽織ったまま、降りしきる雪の中、彼女の家へと急いだ。




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