+ 夢小説3 +


2002年10月22日 「憧れ」

 どこかの宮殿らしく、周りにはたくさんの白い柱が立っている。
 そこを、所狭しとドレスアップをした金持ち風の人たちがひしめきあっている。
 私はドキドキしながら、赤い階段を降りた。
 転校生の気分だ。
 なぜか私は、宮殿の玉座からダンス広場へと降りているのだ。
 人々の視線が私に注がれる。
 やっぱり目立っちゃってるよ・・・。
 私の異質さを聞きつけてか、カメラマンまで来ている。
 とりあえず、愛想は振りまいておかなきゃ。
 ニコニコ笑いながら、私はひたすらに、この時が終わるのを待った。

 バン!
 勢いよくドアが開かれる。せっかくの可愛らしいオルゴール店の雰囲気が台無しだ。
「あの服は全然場にあってないわ。あなた、何考えてんの!?」
 赤に染めた短い髪に、同じく真っ赤なメガネをかけた女性が怒鳴り込んできた。
「いいじゃねーか。目立ったもん勝ちだろ?」
 お兄さんはそれを、適当にあしらう。
 お兄さんは、なぜか私の店に時々泊まる人だ。
 なぜなのかは、私はまだ子供だから教えてもらえない。
 でも、ヒゲを生やしてニヒルに笑うお兄さんを、私は大好きなのだ。
「お兄さんのドレス、素敵だったよ? 私、皆に注目されちゃった」
 私は、お兄さんにぎゅっと抱きついた。
 ついでに、変なお姉さんに、ベーッと舌を出す。
 お姉さんの顔がピクピクとひきつった。
「とにかく!! 次からはもっとマトモな服にさせなさい!」
 側にあった机をゲンコツで叩く。
「これは命令よ!」
 そう言って、ドスドスと戻る。
 お姉さんはまた、ドアをバン!!と閉めると、どこかへ消えていった。
 大丈夫かなぁ・・・。
 お兄さんが心配になり、表情をうかがう。
 ぐりぐり。
 逆に頭をくしゃくしゃにされた。
「さて、次はどんなのにしようかな〜♪ 木地探しに行ってくるぜ」
 ニコニコ笑うお兄さんに、ほっとする。
 お仕事の邪魔しちゃだめかな。
 でも、ほんとはもっと一緒にいたい。
「お留守番頼むな」
「うん。まかせて!」
 心にもないことを言って、お兄さんを送り出す。
 嫌われたくない。
 でも、いつまでもお兄さんと一緒にいられるとは、限らないんだ・・・。
 だって、旅の人だもんね。

 私は、オルゴール屋さんである自分の店の飾りをいじっていた。
 小さな家の形をした置物。
 レジの横に置いてあるのだ。
 よくは分からないけれど、この家にお兄さんは住んでいるらしい。
 小さくなったり大きくなったり変幻自在だ。
 でも、小さくなったところ、見てないな。
「どうしたの? おね〜ちゃん」
 妹の香奈が近寄ってくる。
「お兄さんが小さくなって、ここに住んでるの、見たことないなって思って」
 ひとりごとのようにぼやく。
 お兄さんを好きだって気づかれないように、なにげなくだ。
「あ、私もそうだぁ。今度見せてもらおっかぁ。おねがい〜って甘えてさ♪」
「そうだね」
 興味なさそうに呟く。
 私はこの妹が嫌いだ。
 お兄さんを妹も気に入っていて、すぐベタベタするのだ。
 私だけが、お兄さんに甘えていたいのに。
「おーい」
 突然店の奥から声がした。お父さんだ。
「今からドッチボールの時間だ。はよ来いよ」
 
 そんなわけで、ドッチボールをするハメになった。
 なぜか店の奥には体育館があったのだ。
 今、気づいたけど。
 人数は12人。
 いつもより枠が狭いので、楽にボールが外野まで届く。
 それでも、嫌な球技であることには違いない。
「当てろよ!!」
 そんなふうに命令されたって、できないものはできない。
 できる人間は、できない人間の思いなんて、知るわけないのだ。
 なぜ、店の奥に体育館があるのかは謎のまま、ドッチボールの地獄は続いた。
 
 ピーッ。
 15分くらい経っただろうか。
 休憩の合図である笛が鳴らされた。
「んじゃ、戻るべー」
「はーい」
 ふう、と一息つくと、私たちはそれぞれの更衣室へ向かった。
 私の更衣室は7階にある。ベット付きだ。いつもそこで寝るのである。
 エレベーターで7階まで上がると、友達に手を振った。
「私あっちだから〜」
「ん〜。じゃぁまた明日ね」
 更衣室まで来ると、私はドサっとベットに横たわった。
 そして、そのまま着替えるのも忘れ、眠ってしまった。


 気づいた時、何か異様な気配を感じた。
 ・・・静かすぎる・・・。
 胸がバクバクしている。体からは冷たい汗。
 こわい・・・。
 更衣室から外へ出れば、そこは暗い廊下。まるで使われていない病院のようだ。
 今、ここにいるのは私だけなのかもしれない・・・。
 自分の足音が冷たく響く。
 どうしようもない寒気。
 ・・・逃げなきゃ!!!
 非常階段へと走る。
 なんとか外に!!
 急いで角を曲がる。
「きゃぁぁぁぁ!!!!」
 そこには、血まみれの教師。血走った目で私を睨む。
「コロス・・・」
「いやぁぁぁぁ!!!」
 私の頭上に勢いよく何かがかぶる。
 私は必死でよける。
 右横の床にはパイプがめりこんだ。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
 私はまた、元の道を戻った。
 死にたくない・・・っ。
 奴は、私のほうへとゆっくりと歩く。
 こっちは壁しかないよ・・・どうしよう・・・。
 ふ、と外を見る。
 そこには、青い空に、金色の草原が広がっていた。
 外へ逃げよう・・・。
 そう、たぶんこれは夢だ。あんな血まみれの教師なんているわけがない。
 窓を開ける。そして下を見た。
 高いよ・・・こわいよ・・・。もしコレが現実だったら、私はきっと死ぬ。
 ヤツが私のほうへニタニタ笑いながら寄ってくる。
 考えろ! これは現実か? 夢か? どっちだ!!
 夢に賭けてみようか。でも、現実だったら嫌な死に方だ・・・。
「そ〜れ!」
 ヤツが私に追いつき、パイプをふりかぶった。
「飛べーーー!!!」
 ままよ、と窓からとびおりる。
 お願い、このまま飛ばせて・・・っ。
 
 ふわ、と体が浮き上がる。
「夢・・・だったんだ・・・」
 なかば放心しながら、手をゆっくりと上下に振る。
 ふわふわっと体がもちあがる。
 生きててよかった・・・。だってこんなに美しい景色が見れるんだもん。
 一面に広がる草原。ところどころまとまって咲いている小さな白い花。
 清々しい青い山が遠くに見える。
 この光景を、瞳に焼き付けておこう・・・。
 だって、目が覚めたらもう、こんな景色見れないよ。
 ふわふわと体が浮く感触を十分に味わう。
 腕の疲れとともに、体はゆっくりと地上へむかっていく。
 終わってしまう。素敵な夢が。
 いつまでも飛んでいたいけど・・・。
 現実に、戻らなきゃいけないんだな・・・。

 足が地上についた瞬間、私は夢から覚めた。
 

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