+ 夢小説4 +


2002年11月12日 「がっかり」

 もうすぐ・・・。
 もうすぐだわ・・・っ!!
 私の前には5人の人がまっすぐに並ぶ。
 そして!
 その前には!!
 超巨大スライダー!!
 私は1人でプールに来ているのである。
 日本一大きいと言われる、この巨大スライダーを滑るためだけに、である。
 そのためだけに、もう1時間は待った。
 途中でたくさんの人間を吹っ飛ばす突風にも負けず、ひたすら待ち続けた。
 とうとう私の番が・・・!!
 係の人が私の前に来て、ニッコリと笑う。
「これを持っておりてね」
「あ・・・はい」
 前に並んでいる人と同じように、よく分からない物を4つ渡される。
 白い球である。なんだかぷにぷにしている。
 ただし、でかい。
 片手で2つ持つのがやっとだ。
 ・・・落とさないようにしなきゃ。
 だって、このためだけに1時間も待ったんだもん。
 ようやく、私の前に並んでいた人が滑り出した。
「じゃぁ、次の人座って〜」
 係の人が、私にオイデオイデをした。
「はい」
 ドキドキしながら、青いつるつるしたスライダーに足をかける。
 その時。
 油断したのか、私の手から球がすべり落ちてしまった。
「あ・・・っ」
 それは、スライダーの中へ落ち、水とともに流れていく。
「ごっ、ごめんなさい」
 かぁっと顔が赤くなるのを感じた。
「いや。大丈夫だよ。はい」
 また、4つの球を手渡される。
「すみません・・・」
 私は小さくなりながら、それをしっかりと握った。
 何やってんだろ。私・・・。
 ブォォ・・・ッ。
 大きな風が私を襲う。
「きゃ・・・っ」
 私はなんと、また球を落としてしまった。
 球は私の後ろへとコロコロ転がる。
「ごめんなさいっ。私とってきます」
 やばい・・・。私、泣きそうだよ・・・。
「あのっ、次の方、お先にどうぞ」
 俯いて顔を隠しながら、球をとりに急いだ。
 私の背後で、「じゃぁどうぞ」と言ってる係の人の声が聞える。
 なんだか、すごくみじめだよ・・・。
 球は柱の後ろに隠れていた。
 私はそれをすぐに手にとり、スライダーのほうへ戻ろうとした。

「うぐ・・・」
 頬を涙がぼろぼろとつたう。
「スライダーがなくなっちゃったよぉ・・・」
 そこはもう、滑り台があるような高い場所ではなかった。
 地上である。
 あたりには、流れるプールしかない。
「うぇ・・・」
 私、何しにきたんだろう・・・。
 たった1人で寂しくプールに来て・・・。
 目的すら果たせないよ・・・。
 すごく馬鹿みたいだよ・・・。
 このまま帰るしかないのかな。
 それしか、ないのかな。
 どうして、こんな目にあわなきゃいけないの・・・。
 だって、どこにもないよ・・・。

 1人で泣いていたその時だった。
「あれー。うめぴょんじゃん〜」
 5人くらいの集団が私の元に集まってきた。
 皆、私の友達である。
 とはいえ、現実では友達ではない。
 2次元の、見たこともないアニメ絵な人々である。
「ちょっとうさばらしにね、来たんだ」
 美希ちゃんはそう言って、ニッコリと笑った。
 メガネをかけていて、水色のオカッパ頭である。
 本当は、もっとキャピキャピした元気のよすぎるくらいの女の子だった。
 本当は、もっとマジメで、メガネをかけている笑わない男の子だった。
 2人は付き合っていた。
 そして、ラスボスの呪いで、1人にされてしまった。
 合体させられたのだ。
 一言で説明するならば、強制フュージョンだ。
 そのせいで、どちらとも異なる人格になってしまった。
 この2人のためにも、彼らは戦い続けている。
 私は、いつ仕入れたのか全く不明な記憶をたどり、悲しい気分になっていた。
 この人たちの運命に比べたら、プールでスライダーを見失うくらい、どうってことないよね・・・。
 自分の悩みなんて、ちっぽけなものなんだ。
 そう、思い知らされる。
「どうした? なんか暗いぞ」
 サワヤカ好青年タクロー君が、私の顔をのぞきこむ。
「ううん。ちょっと迷子になってて不安だったんだ。皆に会えてよかった!」
「あはは。1人にしとくと危なっかしーからな」
 そう言って、タクロー君は、ポンポンと頭をたたいた。
「たたくなよぉ。頭悪くなるでしょ〜」
 ドキドキしながらタクロー君に軽く体当たりをする。
 タクロー君はカッコイイ。
 茶色いサラサラした髪に、焼けた肌。
 しなやかな筋肉に、さわやかな笑顔。
 それに、優しい。
 実は狙ってたりするんだ。
 いつか、付き合ったりなんか、できないかなぁ〜。
「気持ち悪い・・・」
 斜め前を歩いていたバカ男が呟く。
「ニヤニヤ笑って、気持ち悪い・・・」
 もう1度呟く。
「う・・・うるさいな。ほっといてよ」
 あのバカ男は、はっきり言って暗い。
 顔も不良っぽい。
 暗い不良だ。
 あんまり、お近づきにはなりたくない人種である。
「そんなこと言っちゃぁ失礼よぉ」
 ピンクの髪を高いところで2つに結んだ女の子が、コロコロと笑う。
「見てると面白いんだからイイじゃない」
 そう言いながら、バカ男の腕に手をまわした。
 苦手なタイプの周りには、苦手なタイプが集まるものよね・・・。
 そう思った瞬間だった。

「ふははははは!!!」
 突然空から笑い声がした。
「ふっふっふ。私の話で盛り上がっているようだな!!」
 ラスボスの登場である。
 真っ黒なトンガリ帽子に、真っ黒なマント。
 何もかもが真っ黒である。
「うさばらしをしたい気持ちもよく分かる!しかぁし!」
 嬉しそうに口を大きくあけるラスボス。でかい牙がギラギラ光る。
「お前の話、もう終わってたんだけどな・・・。一言で」
 例のバカ男が一言呟く。
 ピキ・・・ッ。
 ラスボスの額に、血管が浮き出た。
「くっくっくっくっく・・・。面白い・・・」
 ビキビキ血管が動いている。
 嫌な予感がする・・・。
「そうか、そうか。あれだけでは足りなかったか・・・」
 ラスボスは腰に左手を当て、右手でこちらをビシィ! っと指差した。
「お前も合体しろぉーーーー!!!!!」
 キュポーン!!
 眩しい・・・っ。
 あたり一面、光りが覆う。
 眩しくて、目をあけていられない。
 どうなったの・・・!?

「ふははははははは。また会おう!」
 ラスボスの声だけが聞こえる。
 だんだんと光が消えてきた。
 そぉっと目をあける。
 そこには、変わり果てたバカ男が1人。
 そして・・・。
 タクロー君の姿はもう、どこにもなかった・・・。

 まさか・・・。
 まさか、合体しちゃったの・・・?
「いやぁぁん。どうしてーーーぇ」
 ピンクの髪の女が、バカ男(?)に近寄る。
「ひどいよぉぉぉーーーっ」
 バカ男(?)に抱きつき、泣き喚く。
「あ・・・」
 私も半ば放心しながら、彼に近寄った。
「えと・・・。タクロー・・・君?」
「ああ。そんな記憶もなきにしもあらずだな」
 ピンクの髪の女に抱きつかれながら、フフン、と笑う。
「お前の嫌いな男も消えたかわりに、愛する男もいなくなったわけだ」
 ・・・。
 性格悪くなった上に、よくしゃべる奴になってるよ・・・。
 最悪だよ・・・。
「そんな泣きそうな顔すんなって」
 バカ男(?)は、いきなり優しい目をして、こちらを見る。
「ラスボスなんかチョイチョイってやっつけて、元に戻ってやっからさ」
 えぅ・・・。
 やっぱ、どっか優しいよ・・・。
「やっぱり、性格も変わっちゃったんだぁぁぁ〜〜ん」
 ピンクの女はむかつくことに、まだバカ男(?)に抱きついている。
 ・・・意地でも元に戻ってもらわないと・・・。
 殺しそうだわ。この女。

 その日の夜のことだった。
 何がどうしてそうなったのか、彼らは私の家に来て、作戦会議をしていた。
 私は、お茶をとりに、台所へと向かっていた。
「イー!」
 ショッカーが現れた。
「イー!」
「イー!」
「イー!」
 いっぱいいる。
「きゃぁぁぁぁ!!!」
 私は、なぜか転がっている壊れた傘を使って戦いながら、皆のいる2階へと向かう。
「イー!」
「イー!」
 いやぁぁぁ!!!
 傘なんかじゃ太刀打ちできないわ!
 捕まえられそうになったら、なぜかショッカーが転ぶ。
 とかよく分からないことを繰り返し、風呂場まで逃げてきた。
 私はなぜか、行き止まりである風呂場に入った。
「ふふん。ショッカー! よくお聞き!」
「イ・・・イー?」
「たとえショッカーであっても、レディーのお風呂を覗くことは、あってはならないことよ!」
「イ・・・イー!!!」
 なんだかたじろいでいる。
「さぁ。出ておいき! 私に手を出すのは風呂から出てからにすることね!」
「イ・・・イー・・・」
 彼らは、悲しげに去っていった。

 そろそろ、戦いは終わったかな・・・。
 私はそぉっと風呂場から出ていった。
 戦う4人組と、ラスボスがいる。
「ふ・・・っ。俺の芸が見たいならそう言うがいい!!」
 バカ男(?)が、長縄跳びを一輪車で飛ぼうとしている。
 あれは、タクロー君の技だ。
「もし失敗したら、お前の言う通り、一生このままでいてやろう!」
 なにーーーー!!!
「ふふん。合体していては、技もうまく使えんぞ」
 そりゃそうだ!
 バカ男は、一輪車なんて、乗れもしなかった。
 一生そのまま何ていやーーー!!
 手を合わせて必死で祈る。
 どうか・・・成功して・・・!

「イー!」
 なんで、こんないい時にショッカーが現れるのよ!
 ショッカーはまた、私の前に立ちふさがる。
 今、「きゃぁ」なんて言おうものなら、バカ男(?)の集中力を欠いてしまうかもしれない。
 私は泣く泣く、その場を後にして、ショッカーから逃げた。
 にも関わらず、追いかけてくる。
 走る私。
 走るショッカー。
 もっと走る私。
 飛ぶショッカー。
 驚く私。
 覆い被さるショッカー。
 いやぁぁぁ!! ショッカーなんかに犯されたくない!!!

 その時・・・。
 突然あたりが暗くなった。
 ショッカーも消えた。
 縄とび一輪車ショーの音もしなくなった。
 静かだ。
 ガラガラガラ。
 玄関の開く音がする。
「ただいま〜」
 ママさんが帰ってきた。
「あれ。靴が多いわねぇ。誰かいるの?」
「え・・・えと。うん」
 きっと、私の部屋に皆いるんだろう
「そろそろ帰ると思うよ」
「じゃぁ、夕食の準備しちゃうわね〜」

 ママさんとの会話の後、ドキドキしながら階段をのぼる。
 ほんとに、皆いるのかな。
 今までのは全部、夢だったのかな。
 友達とやっていたゲームの中に、また入っちゃっただけかな。
 トントンと階段をのぼる。
 もし誰もいなかったら・・・。
 それを考えると、ちょっとこわい。

 ゴクっと喉をならし、ドアをそぉっとあけた。
 部屋の中は明るかった。
 何人かの人影が見える。
 誰かが、笑顔で振り向く。
「遅かったな」
 その笑顔が誰のものだったか分からないまま・・・。
 夢から覚めた。

 

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