+ 夢小説6 +


2002年11月30日 「ストックホルム現象」

 場所は中学校。
 すでにもう、記憶から吹っ飛んだと思っていた小学校時代の懐かしい友人が、階段をおりてくる。
「あ、久しぶり〜っ」
「元気だった〜?」
 まったく変わっていない彼女たちに、愛想よくこたえる。
 別段会いたいわけではなかったが・・・。
 それにしても、何で中学校に小学校の人たちが集まってくるんだ?
「もう集合時間だから、早く行こうよ〜」
「うん。そだね〜。ちょっと忘れもの取りにいってくるよ」
 言い訳をして、その場を離れる。
 中学校・・・なんだか懐かしいな。

 それから私は、よく分からない教室に入り・・・。
 なぜか1人だけポツンと座っていたおじさんみたいな生徒に時間を聞かれ・・・。
 なぜか突風が吹き、カーテンが荒れ狂い・・・。
 次の瞬間、その生徒は消えていたという怪奇現象を体験した。

 何はともあれ、集合時間ギリギリに、体育館に着くことができた。
「順番に数を言ってけー」
 熱血漢あふれる先生。懐かしいなぁ。
「1」
「2」
「3」
 並んでいる順番で数を言う。
 なぜか私はそこで、バームクーヘンを食べていた。
「もぐ・・・ひょん(4)・・・」
「こらぁ! もの食うな!」
 先生に怒られ、私は追い出されることになった。

 なんで私は、あんなものを食べていたんだろう・・・。
 手にした覚えすらないのに・・・。
「ごるぁ!!」
「お前が持ってんだろ!!」
 突然2人の男が私の前に姿を現す。
 場所は、家の中に移っていた。
「ガンダムをこの家に保管してるらしいなぁ」
 ガムをクチャクチャ噛みながら、近づいてくる。
 もう1人の男は、でかい銃をかまえながら、そこら辺のイスを蹴り上げた。
「大人しく出せや!」
「出さねぇと・・・」
 そう言って、銃口をこちらに向ける。
「わ・・・分かったわ」
 でも、あれは国家機密。誰かに渡すわけにはいかない・・・。
「今・・・持ってくるわ」
 そう言って隣の部屋へ入った。
 そこには、スモールライトで小さくしたガンダム。
 それでも1メートルにはなる。
 ・・・。
 壊しちゃえ。
「せ〜やっ」
 グシャ。
 偶然隣に置いてあった斧で壊す。
 なんで壊れるのかは分からないが・・・。
 とにかく、壊れた。
「よし」
 ガッツポーズをしたその時だった。
「今の音はなんじゃぁーーーっ」
「お前、ここをあけろーっ」
 ガンガンガンガンッ。
 男たちはドアを力任せに叩く。
 まったく覚えもないのに、ドアには鍵がかかっていたのだ。
 私は窓から、逃げることにした。

 ああ、なんか、バームクーヘンが胃にもたれるなぁ・・・。
 なんか、横っ腹が痛いなぁ・・・。
 これだから食った後の運動は困る。
 そんなことを考えながら、隣の家の庭へと逃げ込んだ。
 そこには、ぼろっちぃフード付きのマントが置いてあった。
 これを羽織ろう。そうすれば、私を見ても分からないかもしれない。
 淡い期待を抱き、それを羽織った。顔もすっぽりとフードで覆う。
 そのまま、さびれた公園へと歩いた。

 公園のイスに座っていると、さっきの男のうち1人がこちらへ向かってきていたようだった。
 私の顔はフードでスッポリと覆っているので、気づいた時には隣にいた。
「お前、ガンダム壊したやつ見なかったか?」
 ・・・気づいていないのかな。
「何のことだか、分からないわ」
 もしかしたら、気づいているのかもしれない。
 殺される覚悟はしておいたほうがいいな・・・。
 今ここで逃げても、きっとコイツのほうが足が速い。
 もう、諦めよう。
「お前、こんなとこで何してるんだ?」
「・・・世の中すべてが嫌になってね」
 適当なことを言っておく。
「そうか・・・」
 なんとなく雰囲気で、男は私ではなく遠くを見ているような気がした。
 私は、きちんと顔を見ておこうと、顔の角度を調整した。
 やわらかそうな茶色い髪。黒いサングラスの向こうに映るどこか寂しそうな瞳。ちょっとやせている顔の輪郭。
 自分の顔を見られないように、すぐにうつむく。
 なんか、事情あるのかな・・・。
 少しだけ、相手に親近感を覚えた。
 でも、殺されるのは、やっぱりやだな。
「さっきさ、ここの公園通りがかってさ・・・」
 男は静かに話し始める。
「なんか、すごくお前が寂しそうに見えてさ・・・」
「なんか、儚くてさ・・・」
 私を騙そうとしてるのかな。
 殺すなら、早く殺せばいいのに。
「お前、家あるのか?」
「・・・公園で暮らしてるから、いらないわ」
「今の時期、寒いだろ?」
「慣れたものよ。水もあるし。十分よ」
 相手の意図が分からない。
 私を自分の家に呼んで、拷問でもかます気だろうか。
「俺んちさ・・・こっから近いんだ」
「そう・・・」
 男は、照れくさそうに笑うと・・・。
 なぜか、自分の生い立ちについて話し始めた。
「俺、小さい頃さ・・・」
 という話だ。
 ちょっと気を許すと、何か勘違いして自分の話をしたがるのよねたいがいの男って。
 そんなことを何となく考えていたが・・・。
 だんだんと辺りが暗くなり・・・。
 相手との2人の世界みたいな雰囲気になると・・・。
 悲しいことに、私の心はほだされていた。
 男に怒鳴られた時の恐怖が、相手と一緒に過ごして親近感を感じるようになることで、好意を感じるようになってしまう。
 一言で言えば、ストックホルム現象だ。
 しかも、夜になると相手との精神的な距離が短くなるという効果。
 これは絶対、錯覚だ。
 そんなことは知っていたが・・・。
 相手への好意を止めることはできなかった。
「俺んちに来ないか?」
「え・・・?」
「俺んちでさ、あったかい家庭っての、つくろーぜ」
「・・・うん・・・」
 この人と、ずっと一緒にいたいな。
 ずっと優しくしてもらいたいな。
 私は彼の肩に手をまわし、ぎゅっと抱き合った。

 このままずっと、騙されていられたらいいのにな・・・。

 このままずっと、時が止まってしまえばいいのに・・・。

「あーたザマス? この家の嫁になるとかゆーおなごは」
「あ・・・は、はい。私・・・です」
 男の家にいたのは、ザマス星人だった。
 艶やかな緑に、金やら銀やらラメやらが入った着物を着ている。
「この家に嫁ぐからには、この家のシキタリを守ってもらうザーマス」
 来なきゃよかった。
 心の底からそう思う。
「では、まずは、嫁になる儀式をするザマス」
「は、はい。お願いします」
 お願いしたくないです。
 どうにかして、逃げれないだろうか。
「このおなごを、例の部屋にご案内してさしあげて」
 よく分からない爺さんに頼む。
「へい。例の部屋ですな。くっくっくっく・・・」
 逃げちゃダメですか?
 私は、これまたよく分からない部屋に案内された。
 和風なんだけれども、デンジャラスだ。
 呪術っぽいのである。
 紫の鏡なんかもあった。
 昔、はやったなぁ、なんてちょこっと思いだす。
 言葉だけだけれど。
「へい。この金の皿をお持ちくだせぇ」
「あ・・・はい」
 5センチくらいの大きさの金の皿。何に使うんだろう・・・。

「くっくっくっく・・・」
 どこからともなく笑い声が聞える。
「ふっはっはっはっはっは」
 男が入ってきた。さっきのしおらしい態度はどこへ行ったんだ。
 ・・・まさか・・・。
 やっぱり騙された?
「これから、儀式を始めるとしよう!」
 男は、高らかに宣言をした。
 チョボチョボ・・・。
 爺さんが、金の皿に何かをそそぐ。
 男が、そこに、火のついたマッチを入れる。
 ボォ・・・!!
 私の手の中で、火が燃えさかる。
「きゃーーーーーっ」
「離すな!」
「な、何言ってるの?」
「これを水で消すことによって、儀式は完了するのだ!!」
「え、ええ!?」
「くはははははははは!!!」
「水なんてどこにもないわ! 水、水というえば油と仲悪いわ!」
「ミネラルウォーターだけが水じゃねぇ!」
「水はどこにだってあるのさーーー!!!」
「きゃーーーーっ」
「熱いわーーーーっ」
 男が皿に近づくっ。
 まさか、飲み干す気?
 ま・・・まさか・・・。
 私に飲ませる気?
 死ぬわ! それ、死ぬわよ!
 死んでたまるか!
「いやーーーーーっ」
 皿をほかる。
「お前、なんてことするんだーーーーっ」
「いやーーーーーっ」
「きゃーーーーーっ」
 火の中で烈火のごとく怒る男。
「信じるんじゃなかったわーーーーっ」
「それはこっちのセリフじゃーーーーーっ」
 
 そんな混乱の中、何が何だか分からないまま・・・。
 目が覚めた。


 

戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送