+ 神に魅せられて 第一章 +



 神よ、あなたはどこにおられるのでしょう。
 あなたのお側へ行きたい。
 あなたのその聖く尊い愛を、もっと近くに感じたい。

 少女は重たそうな本を片手で抱え込むようにして読みながら、恋する乙女のように、熱いため息をついた。
 本の表紙には「魔法大全9 神への糸口」とある。

 神よ、本当に地上はあなたの愛でできているのでしょうか。悲運に嘆く人、疑心におののく人、欲得に目がくらむ人、あなたの愛を感じることができずに、苦悩し、もがき、悲しみに打ちひしがれている人々がたくさんいます。
 私も…神よ、私も苦しい…。
 信じてもいいのかしら。愛しい神よ。全ての禍は福に転じるためのものであると。この世の全ては愛によって生かされていると。
「おい、大丈夫か?」
 突然真上から声がした。
「お〜い、聞こえてるかぁ?」
 そう言って、無遠慮な来訪者は、私の頭をポンポンと叩くと、本を覗き込んだ。
「またまた大層な本を読んでるなぁ。図書館に来るといつもお前いるのな。そんなにのめりこめるものかぁ?」
 私は至福の時間を妨げられた腹いせに相手の足を蹴りながら、言葉を返す。
「だって先生。神は見ることができないんだもの。気になって仕方がないの。ねぇ、先生は神からの愛を信じる?」
「何を言ってるんだ」
 先生は溌剌とした笑顔で両手を広げる。
「僕や君が、確かに、ここに、それでも、生きている。それこそが神からの絶対なる愛の証なんじゃないのか?」
 声のトーンが上がり、周りからの視線の集中豪雨にさらされた私は、にっこり笑う先生を促し、外へ出ることにした。
「ねぇ先生」
 自動ドアが開くのと同時に、また話し掛ける。
「でも本当に神は善なる存在なのかしら。ヨブ記においては神と悪魔は賭けをしているわ。そのためにヨブはいわれなき災いを受け、それを問うたヨブに対して神は、何様のつもりだ、という問いをもって答えたのよ」
「でもヨブは最後まで神を信じただろ?人は幸せだと神を忘れ、悲惨であると神を求める。だから、都合のいい存在だと思っておけばいい。少なくとも人間の常識の中で善なる存在であるとは限らないからな」
 そう言って、先生は眩しそうに空を見上げると、少しはずれた歌を歌った。

 世界に刻されし天の力は
 我々のために時を刻む
 その恩恵を進んで享受し
 心を捧げ神に祈れ
 深き叡智をまとう神の愛の泉に
 その身を浸せ
 真理の源泉から湧く聖なる水は
 お前の想いを静めてくれる

 そして、最後に先生は少し目をふせて呟いた。
「でも、光に近づきすぎると焼かれるんだ。僕は、神を愛し人間全てに嫉妬した少女を知っている。彼女は悪魔を呼び出して失敗し、死に至ったんだ」


2へススム


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