+ 四季第二章 +






  3.彼女の日記より抜粋

 単純なことだよ。
 どうしてわかんないの?
 ただ、側にいてほしいだけなのに。
 なんで、ただそれだけのことが、できないの?
 なんで、ただそれだけのことに、応えないの?
 嘘でもいいの。
 嫌だけど、でも、嘘でもいい。
 愛してるって言って。
 側にいるって言って。
 今、だけでいい。
 今だけでいいから、永遠を約束して。
 こんなに好きになった。貴重な大切な大事な想い。
 消してしまいたい破り棄てたい失ってしまいたい邪魔な想い。
 一番、私の心を占めている想い。
 忘れたい。絶対に忘れたくないから、忘れてしまいたい。
 あの時のささいな笑顔にすら手は届かないのに、あなたのことを思い出してしまう自分が嫌。あなたの感触、覚えようとあなたに触れてしまう自分が嫌。
 虚しさで心がいっぱいになって、寂しさで心が乾いて、くやしくて、くやしくて。泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて――……。
 でも。
 何も変わらない。
 変わらなきゃいけないのは……。
 諦めなきゃいけないのは……。
 私なのかもしれない。



  4.すれ違いの秋を過ごして

 君の瞳に映るもの全てに嫉妬した。
 冷たい風が君の頬をなでる。
 風に赤い紅葉が舞い散って、君の肩にとまる。
「きれいね」
 そう言って、ふっと肩に息を吹きかけ、紅葉を落とす。ヒラヒラと落ちる様子に軽く笑って、僕を見る。
 僕は君を見つめ直す。
 君は視線をそらし、紅葉を見上げた。
「ほんと、きれいね」
 うっとりとする君の姿に、なんだか自分との距離を感じる。君が、僕とは違う世界にいるような気がした。
 そんなことを言いたいんじゃないんだろ?
 本当は、僕と視線を合わせたくないんだろ?
 僕を見てくれ。
 僕よりたかが葉っぱのほうが大切なのか?
 もう僕なんてどうでもいいのか?
 どう思ってるんだ? 何考えてるんだ?
 聞き取れないほどの小さなため息に、僕の心はどうしようもなく傷つく。
「帰ろっか」
「……そうだな」
 嫌だと言えない自分が歯がゆい。帰ると言い出す君がにくい。
 もう僕と一緒にいたいとは思わないのか。
「お前の考えてることが分からない」
「分かり合うことなんて、誰だって無理よ」
「昔と変わったな、お前」
「変わってないと思うけどな」
「僕のこと……まだ好きか?」
「だから、付き合ってるんだと思わない?」
「本当に好きか? 愛してるか?」
「あなたは、どうなの?」
「好きと言えば好きなんだと思う。でも、愛の定義がよく分からないから何とも言えないよ」
「じゃぁ、私だってよく分かんないわ」
 聞きたいことは何度も聞いた。しかし、埒の明かない会話が続くだけで、結局何も分からなかった。
 分かるのは、彼女の気持ちは僕から離れていっていることだけだった。
 僕はそう思っていた。
 だから、好きだとはっきり言えなかった。
 僕がこうなるようにしてしまったのに。前の僕だってそっけない態度ばかりとっていたのに。
 そんな僕が彼女を責めるような権利なんてないと思っていた。
 それに、惨めにも、好きだから側にいてくれ、なんて言えなかった。そう言って捨てられるのが怖かった。せめて、付き合っていたかった。心が分かり合えなくても、少しでも長く彼女の側にいたかった。
 僕はずっと、向かい合いたくないことを先延ばしにしていただけだったんだ。
 だんだんと、彼女はそんな僕の言葉を、僕との行動を、忘れるようになった。
「そんなこと言ったっけ?」
「そんなことしたっけ?」
 忘れられていく恐怖。それが僕の心を内側から蝕む。
「もう付き合って半年経つよな」
「そんなもんかな」
「あの時は桜が綺麗だったな」
「そうだったかもね」
 気のない返事。
 こんなはずじゃなかった。こんなに好きになる予定もなかった。なのになぜ……。
 僕は、そんなに、お前にとって些細な存在になったのか? すぐに忘れるような。会うまで思い出しもしないような。何の影響もない。その瞬間だけの。
 お前の考えるものに、なれなくて。
 お前の好きなものに、なれなくて。
 お前の欲しいものでも、なくなって。
 お前の暇つぶしにさえ、なれなくて。
 お前の意識するもので、ありたくて。
 でも……もう、お前の中に僕は……イナイ。

3へススム


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